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札幌高等裁判所 昭和25年(う)321号 判決 1950年9月16日

控訴人 被告人 宇佐美ツル

弁護人 岩沢惣一

検察官 樋口直吉関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである。

第一点

家賃の認可統制額は地代家賃統制令第六条第二項によれば同令同条第一項により建物又は其の一部につき都道府県知事より認可された家賃の額の意であつて、一度定められた認可統制額は同令第五条第七条第八条第十条に該当する場合にのみ之を変更し得るに過ぎないから、建物の所有者又は賃貸権者は常に其の建物に付定められた認可統制額に準拠するを要し之を超えて其の建物の賃貸を為し得ない、従つて建物の所有者又は賃貸権者の異動は右認可統制額に何等の消長を及ぼすものではない、然らば本件建物の現在の所有者である被告人の夫の前所有者竹村辰蔵所有当時において既に其の家賃認可統制額が存した建物の賃借権を被告人が取得し其の後右認可統制額に何等変更を生じた事跡のないことが記録上明白である本件の場合被告人は右竹村所有当時の本件建物の家賃認可統制額に準拠すべく之を超えて本件建物の賃貸を為し得ない、原審検事の釈明も亦此の点を指摘したのであつて被告人が前家主の取得した認可統制額を承継したと主張したものではないのみならず、原判示事実は原判決の引用した証拠により之を認むるに十分であり原判決には理由齟齬の違法はない。弁護人は地代家賃統制令を曲解し独自の見解に立つて原判決を攻撃するものであり論旨は理由がない。

第二点

本件記録に現われた諸般の事情を綜合すれば原審が原判示事実を認定し被告人に対し罰金三万五千円を科したのは量刑不当とは考えられない、論旨は採用に値しない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人の負担として主文のとおり判決する。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事鈴木進)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は理由齟齬の理由がある。

原判決は「被告人はその夫宇佐美清栄所有に係る札幌市南四条西九丁目一千六番地所在木造亜鉛葺二階建建坪六十坪一棟を使用してアパート業を経営し河村良三郎外九名に対し貸間をしているものであるが、法定の除外事由がないにも拘らず、別紙家賃(間代)受領一覧表記載の通り昭和二十四年四月頃から同年八月頃までの間前後五十回に亘り毎月月末頃右当地自宅において右借間人らより各貸間についてその家賃(間代)の認可統制額より合計金三万一千二百七十一円二十五銭を超過する家賃(間代)金四万四千四百五十円を受領したものである」と判示して被告人が認可統制額を超過する金員を受領したと謂はるるのであるが、被告人が本件家屋の家賃について認可を受けた事実はない。此点については原審第三回公判において裁判官が検察官に「本件被告に対しては認可統制額がないようであるが」と言つて釈明を求めた。それに対し検察官は次回期日である第四回公判において「本件家賃の認可統制額は竹森辰蔵が認可を受けたものであるが被告人の夫清栄は竹森より本件アパートを買い受けその賃貸人の地位を承継したものであるから当然右認可統制額もまた本件アパートの貸間について適用されるものと考える」と釈明した。而して原判決はこの釈明を容れて被告人に対する認可統制額が存在するとしたのであるが、認可は当事者の法律行為が国家の同意を得なければ有効に成立することができない場合に於て、之に同意を与え以て其の効力を完成せしむる行為であるから契約当事者に対して為さるべきである。当事者以外の者に対して縦令認可の行為を為したからと云つてそれが契約当事者に効力を及ぼすものではない。検察官の釈明は前主の竹森辰蔵が認可を受けた家屋を被告人の夫が買い受けて賃貸人たる地位を承継したから当然右認可統制額も亦本件アパートの貸間について適用されると言うのであるが、認可の承継と云うことがあるだろうか、検察官の釈明を観ると家屋に認可があつて、被告人の夫が其の家屋を取得したから当然認可も適用されると言はるるもののようにも思わるるのであるが、認可と云うことは物に対することでなく人の法律行為に対する補充的意思表示であるから此釈明は首肯し得ない。仮りに被告人の夫が認可を承継したと解し得たとしても、それが被告人とどんな関係になるだろうか、被告人の認可の承継と云うことになるだろうか、此の辺のところが肯けない。

然るに原判決は漫然と被告人が認可を得て居つた如く認めて、其の認可統制額を超えて家賃を受領したと判示したのであるから理由齟齬の違法たるを免れない。

第二点<省略>

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